【ZST】KEEP ON 〜2006.5.28 ZST GT-F2 後編〜

休憩明けはヒョードロフさんの追悼10カウント。それも結構唐突に始まった。
ZSTのバックグラウンドであるリングスで活躍された」とか、
そんな感じで紹介されて、起立を求めて10カウント。
これも「あえて」の、ぶっきらぼうさに感じる。白黒の写真の後ろにはミーシャも写っていたな。


で、準決勝 まずは所vs勝村。


忍者のコスチュームで元気よく入場の勝村に対して、
所は試合前のコーナーで頭を氷で冷やされていてびっくり。まだ始まってないっすよ。
確かに1回戦のダメージは段違いだけど、
そんなものは簡単に拭いさったり、そうでなくても空元気!っていう所のイメージが裏切られる。

思えば、所を取り巻く空気は1回戦から、なにか沈滞していた。
生き生きしていない。簡単に言えば「疲れてる」って事なんだろうけど、
それは試合間隔というもの以上の「蓄積された」感じがあった。
当然、前田との練習の悪影響であったりとか、
田村が対談で心配していた「30でそれをやる事の無茶」が想起される。

紙プロを読んだ時は、田村の嫉妬みたいなものかと思っていたけれど、
よく考えれば田村はそういうマイナス感情を織り交ぜながらも、
自分が本当に考えている事しか言わない人間だ。

 
そして試合は1R終了寸前に勝村が三角締めが決まり、所が逃げ切るかと思われた時、落ちた。
落ちるのにレベルがあるのかは知らないけれど、結構深刻に落ちていた感じ。
意識を回復してからは、勝村と笑いながら話したりして、そこは少しほっとした気持ちになったけど、
でも重い気持ちは残る。

 
所は今回の事をどう受け止めて、どういう行動を取るだろうか。
そして、前田はどう考えるだろうか。ここまでの関係だったら、前田のこれまでと同じだ。
自分を丹下段平に例えた前田は、この先に行けるだろうか。絆は続くだろうか。
ひとえにZSTの上原さんに懸かっていると思う。
よろしくお願いします。どうか、なにとぞ、という心持ちだ。

 
続いて準決勝2試合目。バレットvsカポエラの人。

 
うむ。前の試合と同じ準決勝とは思えないな。国内予選とW杯が並行して行われている感じは否めん。
バレットは今日2度目のレッチリ「under the bridge」で入場。美しくも内省的な曲調が意外にはまっている。

 
で、試合はカポエラの人が、バレットでさえも簡単にパスしまくる。
でもさすがというか、バレットはその先の極めには至らせない。たまに足関で逆襲をかける。
息の詰まった名勝負。レフリーの平さんも止めようがない、って感じ。
あるいは寝技の勉強を始めてしまったか。
ストップドントムーブでも「少しでも解いてしまったら、私達にはちょっと復旧できません」みたいな感じで、
「そのまま引きずって、ちょっと移動」しかできない。遺跡みたいだね。

 
2R。おもむろに、カポエラの人が足関を狙いにいく。
しかも先ほどまでの軽やかな感じから一転、藤田のアームロックなみの力技。なんだろなーと思う。

 
展開は変わらないまま判定へ。カポエラの人と勝村の決勝かぁ、
こういうタイプだったら所が凌ぎまくる方が盛り上がるよな、とか思ってると
「勝者、バレットヨシダ!!」

 
ええええーと場内ブーイング。僕らも同調。そりゃないっすよー。
すると審判団、といっても平と和田さんの二人だが、協議して和田さんがマイクを持つ。
その素早さといったら、K-1の時の石井館長みたいな対応の良さ。
そして「ZSTではポジショニングは評価しません。極めにいった姿勢が大事で、それは選手も了承してる」的な説明。
たぶんカポエラの人の唐突な足関は、急にこのルールを思い出したんだな。
判定に関しては、まぁそうかなぁと思い直す。説得されやすいもんで。
でも、カポエラの人は極めにいく順番としてパスしてたんだけどなぁ。
手順を飛ばして「1→3」みたいな感じでやるのも難しいしなぁ。
そもそも、それならもっとブレイクした方が良かったんじゃないの?

 
でも、その事より重要に思えてきたのは、レフリーの素早い対応だ。
リングス系にはありえなかった対応は、
つまりこの対戦で、この事態になる事を事前から想定してきたという事だろうなと。
そして、この事はZSTとしての譲れない一線だったんじゃないか。
「クロスガード禁止」と同じように、ZSTの存在証明、でもないな、
決意の象徴みたいなものなんだろうなと。僕たちは「違う」んだ、と。

 
クロスガードを許したって、今回のメンバーなら面白い試合になるという意見もあった。
それは「面白い試合の為のルール作り」であれば正解だ。
同じように「極めにいってなくても攻撃的だった」今回の試合をカポエラ勝ちにしても良かったのだ。
でも違った。たぶん大事なのは「一線を画す」という事だったんじゃないのか。

 
色々な事がつながってくる。 所バブル以降という状況。客をおいていく煽りビデオ。
内輪の卒業式。ヒョードロフの追悼。そしてこの判定。
全ては「求心力」という言葉に収斂されていく。
あるいは中途半端な客を吹き飛ばす遠心力、でもいい。
核を明確にする為に、過剰に削ぎ落としていく。
そしてその行為そのものを、一つの特性として吸引していこうとする。
リトマス試験紙、あるいは踏み絵。
それを、あくまでフニャフニャしたフォーマットで行ってきたZSTが、一瞬素を見せた。
あの判定はそんな瞬間だったんじゃないか。

 
以上の事を2秒のうちに考えた私。それは嘘。
実際していた事は、汗だらけのカポエラの人と握手しながら(2列目だからね!)
「これに懲りずにまた来てね」と心の中で思っていた。
カポエラの人の手はそんなに大きくなかった。
格闘家との握手は、いつかのタリエル以来。あいつの手は熊の手だった。肉球があったもん。

 
んで、決勝前に、小谷vs佐東の試合。通常ZSTルール。

 
小谷は髪を切ってから負のオーラが増してたように感じてたんだけど、今日は少し伸ばしていたな。
試合は小谷が何かオーソドックスな関節技であっさり勝利。
印象が薄くて思い出せませんし、決勝の選手も休めません。

 
で、決勝前に小野寺愛さんの卒業式。
みんなテープを投げるのが下手。あれはバラバラだと逆に物哀しくなってしまう事を発見。
関係ないけど、今回はZSTガールがリングイン/アウトするのがいつも僕らのいるコーナーなんで、
もの凄く得した気がした。ガンプク、ガンプク。

 
さぁ決勝戦。勝村vsバレットヨシダ。

 
序盤は勝村も攻めていた。相手の頭を押さえつけるような動作を繰り返したかと思うと、
スピニングチョークみたいな、横からのチョークをスタンドで極めかける。
「なるほどー」と柔術習得中の犬さんは感じ入っていた。何か理にかなった攻撃があったに違いない。
ちょっとゴロゴロ転がったり、手首固めみたいな攻防もあったような。
1R終盤(だと思う)、チョークを極めるバレット。
勝村も必死に外していくが、徐々に完璧な形に。んでタップ。うーむやっぱ強いなぁ。
試合後、正座した二人が笑いながら語り合う風景もあった。
犬の人が「勝村とバレットは一緒に練習した事があって、
その時バレットに習った技を勝村がやり返したからだ」と解説してくれる。
なるほど。あたかも見てきたように解説してもらうと、それはそれでまたあれだ。

 
優勝セレモニー。マイクを渡されるバレット。
観客のほぼ全員が「ミナサン、コニチワ」的な片言挨拶を想像していたのに、
いきなり「I'm glad to be なんちゃらかんちゃら」みたいな早口英語で話しだすので、
みな軽くカックンとする。しかも内容もかなり単純な事。
別に悪くはないけど、ただただカックン。

 
副賞を渡す為に、マスコミの方々がリングインするが、
これが揃いも揃って「君たち、確実に式の格を落としてるよ」って感じの格好。
どこかの社はGパンのバイト君みたいな風情だった。僕がバレットだったら怒る。
徹夜明けみたいなヨレヨレスーツの紙プロガンツが一番まともに見えたのはいかがなものか。
しかしバランスが狂ったデッサンみたいな感じの体型だなぁ。ガンツ

 
んで終了。小野寺愛さんの握手会の仕切りが、今イチはっきりしないので、
お客さんは「どうしよっかなー」みたいな緩慢な動き。
決して感動で会場から動けないわけではなく。僕も意味も無くトイレに行ってみたりして。

 
で、出口近くに行ってみると写真撮影が行われていて、
遠巻きに見ていると「握手したい方はどーぞー」みたいな曖昧な表現で握手会スタート。
迷わず近づき2、3番目の順番をゲット。
握手会なんて元東京少年笹野みちる以来だなぁ。
あの時はレズビアンカミングアウト直後で、男はいたたまれなかったなぁ。
でもファンだったんだもん仕方ないよなぁ。
 

で握手。柔らかかったす。こっちは思いっきりシェイクハンドする気満々なんだけど、
相手は、そっと手を添える感じ。こうされると、こっちも強く握りにいけない事を知る。
さすが数をこなしてるだけあるなぁ。プロの握手だ。負けた。
「お疲れさまでした」とオヤジ全開な言葉をかける。かわいかったなー。

 
 
んで犬の人2名と門前仲町に移動して感想戦
九州料理の店で、鶏の刺身を初め、料理はみんな美味しかった。
でも店員の女性が妙につっけんどんで怖い。何か悪い事をしたんだろーか。

 
次第にグダグダとしながら、話したのは高阪の事とか色々。
以下脳内再現。
高阪は何かを成し遂げたんだろうか。
僕はバス・ルッテン戦くらいで選手としての輝きは終わっていたんじゃないかと思う。
長南がアメリカに行ったのは、U-FILEがぬるま湯に見えたように、
高阪の周りも停滞して見えたんじゃないか。
吉田が来て、高阪に柔道色が強まった時から、やな感じは始まっていたんだよ。
結局は柔道の奴らは、すぐに「社会」を作っちゃうから駄目なんだ。そんなの見たくないよ。
それにつけても、大久保ちゃんが吉田道場の奴に勝った時は痛快だったな。

ZSTはたぶん「明確な価値観を保持したまま、興行を維持していく」事を大切に考えているんだろうな。
だからこその大会中の色々であり、そしてディファ有明という会場なんだろう。
それは採算でもあるだろうし、上原さんという人の目が行き届くキャパシティでもあるんだろうなと思う。

 
全然知らないんだけど、たぶん上原さんはワンマンなんだと思う。
理性と感性と洒落心を持ったワンマン。
そして自分のワンマンで物事を成立させられる範囲をよく理解している。
WOWOWが離れた直後、前田が赤字になる前にリングスを畳んだ行動と、
上原さんが今している事がどこかで重なる。ある種の潔癖さというか、
ビジネスをする人として考えると慎重すぎる感じ。
物事を拡大していく時の危険や、時流に乗ってしまった、その後の危険性。
何によって信念が失われていくのか、その力学と罠を熟知しているというか。

 
で僕はそんな感じが嫌いではない。信頼できる感性を持ったものが、何かを続けていく事。
そして「続ける」という事の難しさを知った上での行動。
それ自体が現在において、一つのメッセージになり得ると僕は思う。

 
少なくとも僕は勇気づけられる。